トランプが大統領になった途端にジョージ・オーウェルの「1984年」(1949年)がアメリカで爆売れしたという話があります。冗談のような皮肉のような話ですが、少なくともアメリカのリベラル層は、何らかの危機感を抱いたことのあらわれです。
この「1984年」は当時勢いのあったソ連型共産主義社会をヒントに書かれたディストピア小説の古典ですが、学生時代、読書家の上級生に勧められてこの本を読み結構衝撃をうけたのを思い出しました。
1984年、世界は三つの超大国に分断され、常に戦争状態にあります。主人公のいたオセアニアは、ビッグ・ブラザーと呼ばれる指導者のもと、党が国家を厳しく管理、人々は監視カメラで24時間監視され、思想警察が心の中までチェックしています。真実省という機関が情報を統制、歴史は改ざんされ、事実は国家の方針にそった方向に改変され、そのお蔭で国内では一見平穏な生活を営んでおります。そういった社会が舞台になっています。
幸いまだそんな世界にはなっていませんが、部分的には多かれ少なかれそういう世界が実現してもいます。そりゃそうです、当時から予兆があったからこそ警鐘をならすために書かれたのですから。今の世の中、情報化社会になり、様々な便利ツールが普及し便利な世の中になった反面、一歩間違えると、そういう方向にいかないとも言いきれない、そういう不気味さをはらんでいます。ITなど最新の文明は享受したい一方、こんな世の中絶対いやですね。トランプさんへの批判があたっているかどうかは別として。
ディストピア小説の古典としては、ほかに焚書坑儒の世界を描いたレイ・ブラッドベリの「華氏451度」(1953年)(451°Fは233℃、紙が自然発火する温度)、オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」(1932年)があげられますが、これらいずれも人々に大きなインパクトを与えています。
「素晴らしい新世界」(Brave New World )の世界では、厳密なカースト制度があり、子は試験官から生み出され、胎児の頃から施される教育により自らのカーストに何の疑問ももたない。最新技術のおかげで60歳まで若者の体のままでいられ人生を謳歌できます。娯楽は充実している上、性的な楽しみも自由、嫌なことがあってもソーマという薬を飲むことでさっぱり忘れることができます。マインドコントロールのお陰で死を恐れることなく、ブログラムの従って60歳になれば皆ぽっくり死んでいきます。
ね、こういうの今の世の中に近いと思いませんか。1984年のほうはまさか、という感じですが、新世界の方は、妙に親和性がありませんか。
若者たち大人しくなって、上級国民とか、正社員vs派遣社員とか、もうそういうこと声高に言われず、黙々と生きておられるような気がします。年寄り仲間たちの間では、長生きリスクとか、安楽死がどうのこうのといった、半分本気のトークが飛び交っています。文明のお陰で楽しみはたくさんありますし、概ね健康で長生きしています。少子高齢化対策や医療費増嵩対策として、試験管に近い手法や、安楽死みたいなの提案してくる政治家があらわれても不思議はない。自分自身、こういうの本当に素晴らしい世界かも、なんて思ってしまうときがあります。
暗い話になったとお思いですか? でも自分が安全地帯にいて、まがりなりにも平和に安全に生きていられるからこんなこと言えるんです。無料のブログツールとサクサク動くパソコンを使って、いい加減なこと、嘘八百書来散らかしても警察にしょっぴかれない。
今日は80年前に日本が戦争に負けた日。あの頃と比べたら、全く素晴らしい世の中ではないですか。